契約編:界の世界観
第3章 エピソード1:プチグロウ
- ???
- 「はぁはぁはぁ、ヴリックに見つかるとは、我ながらなさけねーぜ。こんな体じゃなけりゃあなー」
「ダン……お前はあの後どうなっちまったんだ。クソッ、急いで戻らなきゃならねーのに、体が思うように動かねー」
審判の日、ザ・ジャッジメントとの戦いで世界各地に飛ばされたダンの相棒たち。グロウはレクリスの果て、人里離れた見知らぬ山奥で目を覚ます。しかし、重症を負っていたグロウは契約スピリットとしての力の大半を失いプチ状態となってしまっていた。
数日がたち、活動を再開した矢先、プチグロウは、ダンの相棒の捜索を任務としている相棒無頼ヴリックに見つかってしまった。
- 相棒無頼ヴリック
- 「目標と思しきダンさんの相棒発見……しやしたが、どういうこってす? 随分とまあ、ちんちくりんな格好じゃあありゃしませんか」
- プチグロウ
- 「ちんちくりん……クッ、言い返せねー。このままじゃ、ヤベーな」
- 相棒無頼ヴリック
- 「ここからなら、一発で……いや、今のあっしの仕事は見つけるまで、でござんした」
- プチグロウ
- 「見逃してくれるのか?」
- 相棒無頼ヴリック
- 「あっしの仕事は探索まででございやす。ここから先は、カイの旦那の判断を仰がにゃあならんでしょうな……」
- プチグロウ
- 「……恩に着るぜ、ヴリック」
ヴリックとの邂逅から数日後、プチグロウは何かに導かれるように原始植物が生い茂る大きな森に迷い込んでいた。
- プチグロウ
- 「この森、不思議な感じだ……なんだか引き付けられるように入っちまったが、懐かしい力を感じる……いや、これはオレの力か? 無くなっちまったオレの力がこの森にある!」
不思議な力にいざなわれ、森の奥へ入っていくプチグロウ。と、遠くからその姿を見つめる影があった。
- ???
- 「……レジェンドスピリットの落下地点に来てみれば、懐かしい顔に出会えたな。ヴリックからの報告にあったが、本当に縮んでいるんだな。まあ、いい。私は私の仕事をするだけだ」
力の源へ向けて足早に突き進むプチグロウ。そのとき、森の静寂を引き裂くように2つのドラゴンの咆哮が響き渡る。
- プチグロウ
- 「なんだ!? 凄まじい咆哮だ……近いぞ!」
大地を揺らす地響き、木々をなぎ倒す破壊音がだんだんと近づき、プチグロウに大きな影が覆い被さる。
- プチグロウ
- 「うぉおおおお、デッカイ地竜スピリットが出てきたあああああああっ!」
どう考えても勝ち目はない。一目散に逃げるプチグロウ。しかし、巨大な地竜スピリットを引き離せるはずもなく、あわや踏みつぶされる寸前――
- ???
- 「ディラノスッ、こっちだ! お前を目覚めさせたのは、この私だ。その力、私が頂こう!」
- プチグロウ
- 「カイ!? お前、生きていたのか!」
- 契約者カイ
- 「フフッ、それはお互い様だろう? グロウ君。随分かわいくなっているじゃないか」
- プチグロウ
- 「おかげさまでな! この顔が2つある地竜はお前の仕業か?」
- 契約者カイ
- 「君がいるのは予想外だったが、まあ、そうなるな」
- プチグロウ
- 「お前がいるってことは、ダンもいるのか? どこだ、ダーン!」
- 契約者カイ
- 「……ダンは、もう、いない」
- プチグロウ
- 「いない、だと?」
- 契約者カイ
- 「ダンは、君たちを逃がすためにオラクルの力を使い、そして、使い果たした。その隙をついて捕えさせてもらったよ」
- プチグロウ
- 「捕まったのか……ダンは無事なんだろうな!?」
- 契約者カイ
- 「そこは保証しよう。今、ダンに出てきてもらっては困るのでね」
- プチグロウ
- 「へへ、そうか、なら話は早い、お前をぶっ倒して、ダンを助けるだけだ!」
- 契約者カイ
- 「そんな姿で、果たしてできるかな?」
- プチグロウ
- 「むぐ……」
- 契約者カイ
- 「レジェンドスピリット、暴双龍ディラノスッ! 崩壊の契約者カイの名において命じる! 思うがまま暴れるがいい! レクリスを蹂躙せよ!!」
カイの一喝を受け、ディラノスは再び暴れ出す。
- プチグロウ
- 「くそぅ、このままじゃ太刀打ちできねぇ……それだけじゃねぇ、森が……レクリスが破壊されちまう。なんとかしねぇと」
「コラー、ディラノス、暴れるなー! こっちだ、気づけーーーーッ!」
プチグロウは懸命に飛び跳ねディラノスに向かっていくが、分厚いウロコに弾かれてしまう。何度も何度も体当たりを繰り返すが、ディラノスは意に介するそぶりも見せない。プチグロウはそれでも攻撃の手は緩めなかった。次第にボロボロになっていくプチグロウ。
と、そこへ――
- ???
- 「ヤバイ! もうレジェンドスピリットが目覚めちゃってる! 君ぃ! 大丈夫―?」
- プチグロウ
- 「な、なんだ……? ダ、ダン……じゃ、ないな……女の子の、声だ……」
- ???
- 「ギリギリ間に合ったみたいね。ついに見つけたよ、ダンの手掛かり! なんか、かわいくなっちゃってるけど、あんたグロウ……よね?」
- プチグロウ
- 「お、おう……こんな格好だけど、オレはグロウ、だ」
- 契約の巫女トア
- 「あたしはトア! 契約の巫女トアだよ。ダンを助けるために旅してるの」
「あんたが無事でよかった。ねぇ、分かる? あいつの足元。あそこにあんたのエンゲージブレイヴが眠ってる。あれを手に入れて!」
そのとき、ディラノスの足元で岩が崩れ、一振りの剣が姿を見せる。
- プチグロウ
- 「あ、あれは! 無くなっていたオレの力……か?」
何かに引き付けられるようにプチグロウが剣に近づいていく。
剣はそれに応え輝きを増し、熱い光を発する。
その光がプチグロウを包み込み、その姿を変貌させた。
- グロウ&ヒートライザー
- 「キタキタキターッ! オレの力が戻ってきたぜ! これなら、なんとかなるかもしれねぇ!」
- 契約者カイ
- 「ほう? エンゲージブレイヴとは、こうやって生まれるものなのか……以前に見たものとは、また違うようだが」
- 契約の巫女トア
- 「なにが、ほう? よ。余裕ぶってられるのも今の内だからね、カイ!」
- 契約者カイ
- 「フフッ、面白くなってきた。そうでなくてはな、巫女殿!」
- グロウ&ヒートライザー
- 「なんだ? お前たち友達なのか?」
- 契約の巫女トア
- 「いやいや、違うから!」
- グロウ&ヒートライザー
- 「ま、いいや。やいっ、ディラノス! これでも喰らいやがれーッ!」
グロウがヒートライザーを一振りすると、そこから灼熱の衝撃波が生まれ、ディラノスのウロコを切り裂く。あたりにディラノスの叫び声が響き渡る。
- グロウ&ヒートライザー
- 「いける! これならいけそうだぜ!」
- 契約の巫女トア
- 「ううん、グロウ。あんたの力はそんなもんじゃない。その剣はエンゲージブレイヴ。強く願って! あんたの熱い心が新しい力を目覚めさせる……心に炎が燃えている限りッ!」
- グロウ&ヒートライザー
- 「うぉぉぉぉぉっ! オレの炎よ! 熱く燃え上れぇぇぇぇぇぇっ! ヒートライザーッ、エンゲージ!!」
天高く掲げたヒートライザーから炎が溢れ、グロウと共に燃え上る。グロウの身体は見るまに大きくなり、立派なドラゴンの剣士の姿となった。
- 契約の巫女トア
- 「やった、大成功! グロウ、ディラノスはカイの術で操られてるみたい。あの子を解放してあげてー!」
- 灼熱剣皇ソード・グロウ
- 「おう! これで、お前と対等に戦えるぜ! カイの術からも解放してやるからなッ、ディラノス!」
ソード・グロウは、炎を帯びた剣撃をディラノスに向かって放つ。一撃ごとに確実にダメージを与えていくソード・グロウ。ディラノスの暴走は完全に止まっている。
- 灼熱剣皇ソード・グロウ
- 「これで止めだぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
ソード・グロウの炎の一閃がディラノスを完全に沈黙させる。
- 契約の巫女トア
- 「スゴイ。ダンの相棒って、やっぱり強いんだ……」
- 契約者カイ
- 「すばらしい。ダンの相棒とエンゲージブレイヴの組み合わせは、レジェンドスピリットすら凌ぐか……」
(しかし、あのレジェンドスピリットを呼ぶ程ではなかったな……)
「目的は果たした。巫女殿、グロウ君、また会おう!」
- 契約の巫女トア
- 「目的って、レジェンドスピリットを手に入れることじゃないの? あたし、貰っちゃうからねー! もーわけわかんないっ!」
いつものごとく空中に消えるカイ。一方、戦いを終えたグロウは……
- プチグロウ
- 「うお……またこの姿に戻っちまった」
- 契約の巫女トア
- 「あらら、かわいい姿になっちゃって、まあ……きっと、まだ完全に力が戻ったわけじゃないんだね」
- プチグロウ
- 「そーらしいな。ちょっと不便だけど、しゃーねーな。その内元に戻んだろ」
- 契約の巫女トア
- 「あはは、凹んでなくてよかったよ」
「あらためまして。あたしは契約の巫女トア。カイたちに捕まったダンを解放するために旅してるの。一緒に来てくれる? グロウ」
- プチグロウ
- 「ああ、オレはダンの相棒だ! その旅、オレも付いていくぜ! 待ってろよ、ダン。絶対助けてやるからな!」
こうしてトアの仲間にダンの相棒であるグロウが加わった。トアたちの旅は続く。