契約編:界の世界観
第1章 エピソード2:フラウ
- 「あれ? なんか視線を感じるなぁ、ん~、そこだっ!」
- 「はうあっ! いたたぁ、転んじゃったよ……って、み、見つかっちゃったぁ!!」
- 「うわっ、花の女の子だ。あと、なんかでっかいタマネギ? 頭っから突っ込んできたよ……だ、だいじょうぶ?」
- 「あ、あのっ、え~っと……この子はサプリン、お友達……ワ、ワタシは、フラウって言うの!」
「メルモーズ樹海」へはまだ遠いことをフラウから聞いたトア達は、フラウの住む「メロラウアの里」で一夜を明かすことになる。フラウの育ての親でもある里長の「樹狼フェンリーフ」の家に泊まることになったトアは、その夜、フラウとのおしゃべりに花を咲かせる。
- 「それで~、ヒトツメ姫がね、ワタシのことお花畑っていうの~。あ、ヒトツメ姫は、虫の国のお姫様のことで~、いっつも里に遊びに来てくれるんだ~」
- 「姫はとっても強くて、ワタシたちを守ってくれるの。このブルーム・ステムの使い方を教えてくれたのも姫なんだ~」
- 「その槍って、いつも持ってるよね? なんだか不思議な感じがする。植物みたいなのに、硬くて、温かい? それにこの感じ、ウィズのフォーアンサーと似てる……」
- 「これ、ワタシが生まれたときから持ってたって、じーちゃんが言ってた。姫が言うにはエンゲージブレイヴっていう特別なものらしいけど、ワタシには難しくてわかんない~」
- 「そっか、その槍大事にするんだよ、きっとフラウを助けてくれると思うから」
- 「えへへ~、そうだね」
好奇心旺盛なフラウとのおしゃべりは、とりとめもなく続く。里の外の世界に興味を持つフラウはいつか自分も外の世界を見てみたいと目を輝かす。そのとき、静かな里に大きな爆発音が響き渡る。爆発は樹海からの様だった。審判獣か、それとも、レジェンドスピリットを狙っているという、もう一人の契約者だろうか。トアたちは樹海へ向かう。
「メルモーズ樹海」が見えてきた。何か巨大なものが攻撃を受けているようだった。近づくにつれ、その巨大さに目を見張る。
- 「なにあのデッカイの! あれがレジェンドスピリット?」
- 「そのようだ。あの硬そうな装甲、僕と相性がいいかも」
- 「でも色はブラウンだ。シルバーなユーには似合わないんじゃないカ?」
- 「うわ~、あれカブトムシかな~? か、かっこいい~」
- 「くだらないこと言ってないで、周り見るっ! 誰かいるよ!」
武将の様なスピリットを中心に沢山の武者スピリットたちがレジェンドスピリットに攻撃を加えている。そして、その手前の小高い丘にひとりの男が佇んでいた。
- 「これはこれは、契約の巫女殿。メルモーズ樹海に落ちたレジェンドスピリット、貰い受けに来たぞ」
- 「あんたがカイね! 世界崩壊契約を結んだもう一人の契約者。契約したって姿も見せずに、ザ・ジャッジメントを呼んだり、ダンを捕まえたりっ、何がしたいのよ! 好き勝手してくれちゃって、もう!」
- 「フッ、私は契約に従っているだけだよ。その契約も契約調停機関のお墨付きのはず。君も承知済だろう?」
- 「うっさい、巫女だからって、なんでも自由にできるわけじゃないの! ダンとあんたを呼んだのは確かにあたしだけど……許せないことはあるの!」
- 「ならば、抗ってみるか? ダンのいないこの世界で、契約の巫女に何ができるのか。 多少の興味はある」
- 「いいわ、ダンを助け出せば、世界も救える。あたしがやってやる。あんたを呼んだけじめ、つけてやろうじゃないの!」
- 「ふははっ、よくいった巫女殿ッ! では、今から君は私たちの敵だ! オボロ! レジェンドスピリットの前に一仕事頼めるかな? あれの使用を許可しよう」
- 「承知~ぃ。斬っても斬っても反応のないものにぃ、飽いてきたところ~ぉ。拙者の新たなる力~ぁ、今こそぉ、お披露目~ぇ。いざぁ! 裏・契・約・煌・臨!」
- 「うわ……なんか変なの出てきた。ガット、いってくれる?」
- 「お任せあれ☆ユア・マジェスティー! 龍皇ジークフリード・契約煌臨ッ!」
ジークフリードを契約煌臨させたガットと血鬼神将ゴク・オボロの戦いが始まる。ゴク・オボロの赤い刀が振るわれるたび、斬り刻まれるジークフリード。以前の様に慣れていないわけではない。それだけゴク・オボロが強いのだ。
- 「そんなっ、ジークフリードが手も足もでないなんて。ウィズ、何とかなんないの!?」
- 「くっ、僕にレジェンドスピリットの力があれば……」
ゴク・オボロの刀から紫の炎が撒き散らされる。炎は見る見るうちに燃え広がっていく。樹海が燃えてしまう。ここには多くのスピリットたちが暮らしているのだ。そんな大事な森が壊されてしまう――。
- 「ダメ~~~~~~~~~~~~~~~~ッ!!! 森を、燃やさないで~~~~~! そんな悪いことする子は……ワタシが……おしりぺんぺんしちゃうんだから~~~~!」
フラウから緑の光が巨大なレジェンドスピリットに伸びてゆく。ゆっくりと、うずくまっていたレジェンドスピリットが立ち上がる。フラウはレジェンドスピリットの中にいた。
- 「あれ~、ここどこかな~? おお~目線が高い~。そうか~、アナタは、カイザーアトラス皇帝っていうんだね。うん~、ワタシ、森を守りたいの。力、貸してくれるんだ~、あ~り~が~と~。じゃあ、やっちゃいますか~」
カイザーアトラス皇帝の分厚く巨大な剣が、ゴク・オボロに振るわれる。重く鈍い音が辺りに響き渡る。とっさに刀で受けたゴク・オボロだったが、それだけで精一杯のようだ。
- 「ぬぅぅ、なんという剣の重み~ぃ。その甲殻の硬さはぁ、既に実証済~ぃ。久方ぶりにぃ、血ぃ、湧きぃ、肉躍るぅ、戦いが~ぁ、楽しめそうだ~ぁ」
カイザーアトラス皇帝の剣撃に次第にゴク・オボロの動きが鈍くなっていく。そして、大きく振りかぶった最後の一撃がゴク・オボロに振り下ろされる。吹き飛ぶゴク・オボロとその仲間たち。
- 「ぬぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ! 甲殻のぉ、大武者よぉぉぉぉぉぉ、その一太刀ぃ、忘れぬぞぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっっ!」
真夜中から始まった長きに渡る戦いについに決着がついた。時は、すでに日が昇ろうとしている時刻であった。
- 「うっわーーーーーーーっ! やったーーーーーーーーーーっ! あれ、フラウだよね! フラウがレジェンドスピリットと契約煌臨しちゃたよ! あはははは、やったーーーーーーっ! 見たかーカイーーーーッ!」
- 「おお~、これが勝者の景色ですか~、いい眺めですな~」
- 「オーマイガッ! あれが、あのフラワーガール……ッ」
歓喜に包まれるトアたちに、カイが語り掛ける。
- 「素晴らしい! 裏契約煌臨をしたオボロを退けるとは! レジェンドスピリットの力、ますます揃えたくなってきたね」
- 「なに? まだやろうっての? やるなら相手になるわよ! フラウがっ!!」
- 「トア~~、ワタシ、ちょっと、も~無理かも~」
カイザーアトラス皇帝が消え去り、フラウが戻ってくるが、さすがにいつもの元気はないようだ。
- 「ごめんね~、ワタシ、森守る~~~ぅ」
- 「フラウ、しっかり! ううん、もういいよ、しっかり休んで」
- 「さて、巫女殿、まだやるかい? どうやらフェルマが近くにいるようだし、彼女なら、リーンに乗ってスグにやって来てくれるだろうね」
- 「あたしたちにだって、まだウィズがいるわ」
トアの目はまだ死んではいない。彼女は本気で勝つつもりなのだ。
- 「オーケー……分かった。巫女殿は本気でここで終わらせるつもりのようだ。けど、それじゃあつまらない。好敵手がいてこそのゲーム! まだまだ私を楽しませてくれ」
- 「ちょ、何を勝手に……」
- 「……ポイント・ゼロで待つ。では、さらばだ!」
- 「だからっ、勝手に話を進めるな――――――ッ!」
そう言ってカイは去っていった。カイのいう「ポイント・ゼロ」には何が待ち受けているのだろうか。トアたちはフラウを仲間に加え指定された場所へ向かうのだった。
フラウは これから外の世界に飛び出していく。そしてトアと共に成長していくのだろう。
- 花相棒フラウ
- 「トア~、ワタシ、外の世界を見てみたい! アナタについていっていい? ワタシ、お役に立つと思うな~ 」