バトスピの世界観

契約編:界の世界観

第2章 エピソード3:レーヴ

「蒸気の国スチーマ」に巨大なレジェンドスピリットが墜ちたとの情報を得たトアたちは、「蒸気都市スチームハイヴ」にやって来ていた。蒸気機関で発達したこの街は、蒸気と喧噪に覆われた巨大な都市である。

「うわー、ここ、すっごく発展した街だね。大きな建物がいっぱいだあ」
「ごほっごほっ、う~、この街煙たい~」
「なかなかノイジーな街じゃあないカ。ミーは嫌いじゃないヨ☆」
「……騒がしいのは、嫌い」
「この街は見たことないものが沢山あるな。しかし、みんな急いでいるみたいだな」
「う、うわ~、おいら、こんなの見たことないよ、師匠、ここにも来たことあるのかな?」

レクリスでも珍しい蒸気の街を見物していると、機械的な電子音が聞こえてくる。

「マスター……契約……更新……必要……至急、至急」

電子音を発していたのは土偶の様な姿をした1体のスピリットであった。トアと目が合うと、彼女に狙いを定めたかのように近づいてきて、再びしゃべりかけてきた。

「マスター発見 コレヨリ追尾モードニ 移行シマス」
「え? え? え? なにこの子!? なんかついてくるよーっ!」

トアは走り出すが、まったく引き離せない。執拗にトアを追う土偶スピリット。本気で逃げる彼女を追う土偶スピリットは、周りの迷惑も顧みずに、街路樹や屋台をなぎ倒しつつ迫ってくる。街中を逃げ回り、街の大通りへ出る頃には大きな騒ぎになっていた。

「そこまでだ! スチームハイヴを騒がす悪党めっ! 私は蒸気の裏に潜む者、人呼んで蒸貴賊のサリンジャック! ……って、お前、レーヴじゃないか!?」
「……仮契約 完了 マスター 御指示ヲ」
「おいおい、あんた、レーヴと契約したのか……」
「いやいやしてないしてない! マスター? なにそれ……?」

土偶スピリットの暴走を止めたのは、「サリンジャック」と名乗る怪しいスピリットであった。彼はスチームハイヴでは知らない者はいない「蒸貴賊」の一員だという。これで一件落着かと思いきや、今度はサリンジャックにトアが拉致されてしまった。

「このお嬢さんは頂いていくっ! はーっはっはっはっはっ!」
「しまった、トア!」
「ウィズー! 助けてー!」
「……追おう、早く」
「わ~、トア~、どこいっちゃったの~?」

蒸貴賊のアジトに連れてこられたトアは、彼らから、これまでのいきさつを説明される。それによると、土偶スピリットは名を「レーヴ」と言い、彼らが立てた大きな計画に必要な契約スピリットであるということであった。

「ひとまず、あたしをさらったことについては、だいたいわかったよ、納得してないけどっ」
「それについては、我々もすまないと思っている」
「……つまり、レーヴはあんたたちが連れてきて、何か知らないけど、大きい事をやろうとしてたわけね。でもあたしが、よくわからないうちに仮契約しちゃったから、計画の遂行が怪しくなっちゃった、と」
「まぁ、概ねそんなとこだ。はぁ、どうすんだよ、これ」

仮契約の解除を試みるも、レーヴは頑なに受付けを拒否し、はや数時間。蒸貴賊の仲間たちは仮契約の解除をあきらめ、トアを計画に引き入れる算段を始める。

彼らによると、このスチームハイヴという街は、「ワン・ホーン」と呼ばれる者に支配されているらしい。ワン・ホーンには国の役人ですら逆らうことはできず、市民も怯えるしかないのだという。蒸貴賊は、そのワン・ホーンを打倒するべく日夜活動している義賊ということだった。そして、そんな彼らが遂行中だったのが、ワン・ホーンが手に入れたレジェンドスピリットを奪うという計画だったのだ。計画を聞かされたトアは二つ返事で応えると、アジトに仲間たちを呼び、この計画に協力すると宣言するのであった。

レジェンドスピリット強奪作戦は、「蒸気祭」に乗じて行われることになった。蒸気祭とは、このスチームハイヴ最大の催しで、街を挙げて7日7晩騒ぎまくるという祭りだ。ワン・ホーンは祭りの目玉である競技会でレジェンドスピリットを賞品にして、国内外にその力をアピールするつもりらしい。

「じゃあ、その競技会で優勝すればレジェンドスピリットは手に入るんだね」
「そんな簡単な話じゃなくってな。競技会は八百長だ。そんなのに付き合ってやる義理はねえ、その前にレジェンドスピリットを頂く! そっちの方がアイツに吠えづらかかせられるってもんよ」
「なるほど~、お主もワルよの~」
「褒めるなよ、トア。お前も好きだろこういうの」
「えへへ~、大好き」

作戦はこうだ。レジェンドスピリットは事前の調べから「機動要塞キャッスル・ゴレム」と判明している。そのために、相性のいい造兵の契約スピリットとしてレーヴが用意された。そして、レーヴと契約したマスターがキャッスル・ゴレムの元まで連れて行き、キャッスル・ゴレムを契約煌臨すれば奪取完了。あとは、レーヴを遠くへ逃がすだけでいい。若干のトラブルもあったが、幸いにもトアはレジェンドスピリットとの契約煌臨において、これ以上ない人物だった。当日は、蒸貴賊たちが囮となってワン・ホーンの手下たちをおびき寄せ、トアと仲間たちがレジェンドスピリットの元へ向かう手はずになっている。

作戦当日。街は蒸気祭の喧騒に包まれていた。トアたちは祭りの騒ぎに乗じて、レジェンドスピリットが安置されている倉庫街へと向かった。そこには当然警備員がいるものと予想していたのだが、その警備員は既にやられていた。レジェンドスピリットの元へ急ぐトアたち、そこにいたのは、テラード率いる「グラムバルト空挺隊」だった。

「吾輩たちの他にレジェンドスピリットを奪おうなどと考える者……そうか、貴様が契約の巫女か!」
「あたしたちの他にレジェンドスピリットを欲しがってるのって、あんた、カイの契約スピリットね!」
「察しがいいな、翼持たぬ契約の巫女よ。そうだ! 吾輩はカイ殿の契約スピリットにしてグラムバルト空挺隊総司令官テラードである!」
「カイはいないみたいね。いつもなら、アイツもいるのがお決まりだったのに」
「カイ殿は……競技会観戦中である。まったく、あの方のゲーム好きには困ったものだ」
「あぁ~、アイツなら、そうかもね……」
「なら話は早い。今のうちにお前たちを倒して、僕たちの目的を達成させてもらう」
「そのレジェンドスピリット、ミーたちが先約なのサ」
「……邪魔するなら、排除」
「ワタシたちは~、任務を遂行中なのでありま~す」
「お、おいらは、みんなの援護、するよ」
「任務ノ障害ヲ感知 コレヨリ戦闘モードニ移行シマス」
「ほう、白きドラゴンか、なかなか良い翼を持っているな……そして、こちらは鷹、いや鷲か! 面白い! 貴様、名は何と言う? 吾輩と勝負するのである!」
「ミーはガットだ。空中戦なら受けて立とうじゃないカ、ミーの高さと速さについて来られるカナ☆」

テラードとガットは、互いに翼をはためかせ大空へと昇っていく。空中で2度、3度と激突を繰り返し、再び空で対峙する。間髪を入れず、ガットはツヴァイザーを回転させ斬りかかっていくが、テラードはそれを難なく避け、ダイノウィングの矢を発射してくる。空中で戦っているとは思えない攻防が繰り返され、互いに手の内を出し切ったところで、次の一手、契約煌臨の態勢へと入る。

ガットは「龍皇ジークフリード」を、テラードは「空帝翼刃テラード・フリューゲル」を契約煌臨させ、さらに激しくぶつかり合う。

空中を自在に舞うテラード・フリューゲル。その速さにジークフリードは手も足も出ない。テラード・フリューゲルは目にも止まらぬスピードで、ジークフリードに攻撃を仕掛け続ける。

「ふははははははっ、そんなものか、伝説の龍皇の翼は!」
「ヘイ、そんな程度の攻撃じゃあ、ミーの翼は折れやしないヨ」
「ならばっ、喰らうがよいっ! モールドフリューゲルッッ!!」

テラードの6枚の翼が赤く大きく伸び、ジークフリードに襲い掛かる。大きな爆炎が空を赤く染め、大気を震わせる衝撃と熱風が地上に伝わってくる。そして、一筋の煙の尾を引きジークフリードが地上に墜ちてくる。

「ガット! そんなっ、ジークフリードが負けちゃうなんてっ」
「なかなかいい勝負であったぞ。しかし、やはり吾輩の方が優れた翼だったようだ」

空中で勝ち誇るテラード・フリューゲル。そのとき、倉庫街のレジェンドスピリットが青く光り、巨大な姿をあらわにしていく。

「……レーヴの契約が完了したようダ。試合に負けて勝負に勝ったようダナ……☆」

眠りから覚めたキャッスル・ゴレムは、テラード・フリューゲルに向けて、大槍を投げつける。神速の如き勢いで投擲された大槍は、大気を切り裂き、テラード・フリューゲルの翼をかすめ、空の彼方に消えていった。大槍のつくり出した風の奔流にバランスを崩すテラード・フリューゲル。

「ガット、貴様はこの為に……この勝負は無効だ! いずれ決着をつける! 待っているのである!」

テラード・フリューゲルは大きく羽ばたくと、身をひるがえし、空へと消えていった。

「目標……ロスト マスター 任務ノ完了ヲ報告シマス」
「フフッ、今回はちょっとばかり、デンジャラスだったヨ……☆」
「ガット、レーヴがんばったね!」
「お城、おっきい~、カイザーアトラス皇帝よりも、ずっとずっと大きかった~」
「よくやったな、ガット。少しは見直したよ」
「……お見事」
「すごいや、ガットさん、おいらもあんな風に契約煌臨できるかなぁ」

任務を達成したトアたちは、スチームハイヴへと戻り、蒸貴賊たちと合流を果たすのであった。

「やったな、トア、無事任務達成だ。お前ならやると思ってたぜ」
「任せてって言ったでしょ、サリンジャック。あたしたちなら、絶対に成功するって」
「ああ、さすがボスの見立て通りだ。契約の巫女さん」
「え? あたしが契約の巫女だって言ったっけ?」
「……すまない。実は私たちはお前の素性のことを知ってたんだ。レーヴをけしかけるとこから全部、ボスの筋書き通りってね」
「最初からあっ!?」
「ああ、私たちのボスは、この街の表にも裏にも通じていてな。いずれ、お前たちも会うことになるかもしれないが、まあ、今は作戦の成功を祝おうじゃないか!」
「さぁ、飲め飲めっ、スチームハイヴ名物、スモッグドリンクだ、はっはっはっはっ!」
「……一本取られた」
「オーマイガッ! すべてお前たちの掌の上カ☆」
「やれやれ、それならそうと言ってくれればいいものを」
「ん~? ど~ゆ~こと~?」
「おいら、ダルニアさんのこと信じてたのに……」

サリンジャックが打ち明けた話に様々な反応をするトアたちだったが、そこに悪意は感じられず、互いに打ち解けるのに時間はかからなかった。

蒸気祭最終日、メンツを潰されたワン・ホーンは、蒸貴賊たちに懸賞金を掛け、彼らを探し出すのに躍起になっている。サリンジャックたちはそれすら楽しんで逃げ回っているようだ。
彼らのことだ、捕まらずにやっていくのだろう。

そして――当初の目的、レジェンドスピリットの確保を達成したトアたちはスチームハイヴを後にすることになった。

「いろいろあったけど、お世話になったね、サリンジャック」
「私たちも楽しかったよ、トア。いつ何時も遊び心を忘れないことだ」
「うん。あんたたちは、ほどほどにね」
「ああ。それから……レーヴのことだが、作戦の最終フェ-ズだ。お前はこの街にいると少々面倒なことになる」
「了解 コレヨリ当機ハ スチームハイヴ ヲ離レル」
「……それでなんだが、トア。コイツを連れて行っちゃくれないか?」
「え? 何言ってんの、そんなの当たり前じゃないっ! あたしはこの子のマスターなんだから。それにレジェンドスピリットを手に入れるってのがあたしたちの目的だったんだからね」
「はっはっはっはっ! そうか、そうだったな! これからもレーヴをかわいがってやってくれよ、トア!」
「うん。あたしにまっかせなさい!」
「やれやれ、また、旅の仲間が増えたな」
「わ~い、これから野宿になったら~、お城で寝られるね~」
「そいつは、ゴージャスな旅になるんじゃないカ?」
「……あり」
「契約煌臨って、そういう使い方してもいいの!?」
「場所ガ用意デキレバ ソレモ 可能」
「お~、グランピングだぁ。レーヴ、これからよろしくね」
造相棒レーヴ
「コチラ 汎用機動兵装中枢ユニット“レーヴ” 契約ノ更新ヲ願イマス」
造相棒レーヴ